無い袖は振れぬ
埼玉県では、今年は10/1に改定され、時間額820円→845円と25円の引き上げがなされた。
埼玉県の昼間のパートタイマーの募集時給(研修時給が設定されている事業所は研修期間終了後の基本時給)は9月までは900円程度が相場であった。
高い方は都市部やショッピングモールの店の約950~1000円、工場の約1000円、そして若干特殊な仕事の1200円前後などであり、低い方はコンビニ(最賃スレスレな職種なのは有名だろう)の約820円やホームセンターの約850円などであった。
それが最低賃金845円となるとどうだろう。
まだ改定されたばかりなので相場は未チェック(これから時給変わる事業所も出てくるだろうし)だが、以下のように予想する。
最低賃金820円時代にA社820円、B社850円、C社900円、D社950円、E社1000円だったとする。
最低賃金が845円になったことによりAはそのままでは違法化するため845円か末尾切り上げの850円。
BはAに時給が並ばれるため人集めのために時給の優位性を維持すべく870円。
CはBとの差が縮まるため920円。
Dも同様に970円。
しかしEはもともと1000円でありこれ以上上げるのはキツいため据え置き。
あくまで想定の範囲を出ないが、下が上がることにより連鎖的に上がるだろう。
ただ、Eのように元々最低賃金に対して余裕持たせてある事業所は据え置きの可能性は高い。
それでも最低賃金上げには意義がある。
これについては賛否があるようである。
毎年のように言われていることであるが、賛成側は「これで低所得層の所得が底上げされる」「そもそも今までが安過ぎた」であり反対側は「中小企業の負担が大変だ」「雇用が減るのではないか」といったところであろう。
私は賛成側の立場である、ただし条件付きで。
まず、反対側に対する反論から述べたい。
「中小企業の負担は」についてである。
中小企業は人件費を増やす体力の無いところが多いのも事実である。
しかし、その分行政補助を強化するのはどうだろう?
従業員の給料が増えれば一次的には所得税収、二次的には消費が増えることによって消費税収がそれぞれ増えるはずであり原資をかなり回収できるはずだ。
続いて「雇用が減るのではないか」についてである。
私はこれは半分杞憂であると思う。
毎年のように言われていたわけだが実際最賃上げによって雇用がダメージを受けているかというとあまりそうではなかったように見受けられた(つまり従前とほぼ変わらない雇用)。
これは人減らしを行うと従業員の労務負担が重くなりすぎるということに因るものかもしれない。
一旦人減らししても従業員の仕事がハードになって職場に不満が溜まり仕事の質も低下し已む無く元の従業員数くらいに戻すというのも珍しくはないことだ。
若しくは、他の部分でのコストダウンや商品の規格改訂(内容量減)などの企業努力か。
何れにせよ心配されたほどの結果にはなっていないのである。
今後も同じかは保証できないが、恐らく今までと似たような展開が有り得ると考える(当面は)。
ましてや消費者の意識も変わり始め、適切な価格転嫁は仕方無いと考える人が増えたため(2014年の消費増税時が分かりやすい例)賃上げに伴う価格転嫁も認められるようになる可能性は低くない。
価格転嫁が出来る(値上げした商品がちゃんと売れる)なら人件費増くらいはペイできる。
二点書いたが、そうであれば最賃上げの負の側面は小さくなり、むしろプラスの部分の方が大きい。
労働者は消費者・生活者でもある、ということを忘れてはならない。
仕事があるか無いかより食えるかどうか、まともな生活ができるかどうか、の方が重要である。
食えない金で雇われているのでは意味がないことは多くの人が既に知ることだ(働いていると生活保護が貰えなかったりするわけで働く以上は生活できる額がないといけない)。
また、「無い袖は振れぬ」だ。
賃金については企業側が「無い袖は振れぬ」というスタンスであることが慣例化しているが、それは労働者側も同様である。
借金してでも躊躇せず消費するとかならともかく、一般的な金銭感覚を持っていれば、所得に比例した消費の仕方をする。
つまり賃金を安く抑えられてしまうと生活必需品やそれに準ずるもの以外にはあまり手が伸びなくなる。
必需品も安いところで買うようになってしまう。
そしてブーメランの如く企業側に跳ね返る。
これがデフレスパイラルだ。
好循環を作るには価格転嫁を認める風潮を広めてから賃上げを行い、コスト増分を適切に価格転嫁し、そして再び賃上げという流れが考えられる。
ただし、これは特定の企業や業界に限られては意味がないものであり、社会全体で行われる必要がある。
何故なら社会全体で賃上げ&価格転嫁が行われないと歪みが生じてしまうからだ。
皆でやれば怖くない、に近い発想だが、皆でやれば価格転嫁が受け入れられやすくなる(物価が上がっても収入が増えれば大丈夫)。
人件費はワンオブゼムのコストであるため、為替変動や原価高騰などの影響を省いて単純に条件を揃えて考えてみると、賃上げによる値上げ率は賃上げ率より低くなる。
つまり実質豊かになる。
では原価が高騰したらどうするのか。
これについては原価高騰分以上に値上げすれば良いだろう。
原価高騰分だけの値上げだと会社の実質利益は変わらないので賃金変わらず、値上げ分だけ生活が苦しくなる。
余裕を持たせた値上げをすれば賃上げできるし、これが他社にも波及し「物価が上がったから賃上げしよう。原資はうちの会社の商品の値上げで賄おう」となれば生活は苦しくなりにくい。
最低賃金の話から逸れてしまったが、「無い袖は振れぬ」は立場関係なく誰もが該当するということを言いたい。
景気の好循環は切っ掛けと環境準備が必要である。
最低賃金アップはそのための手段の一つでしかないが、企業の多くが人件費に対してシビアな取り組みをしてきた(日本の非正規労働者は先進国の中では収入が最低水準)以上、底上げという意味で必要不可欠といえる。
故に私は賛成である。
勿論、上記にあるような価格転嫁を進めることの重要性を添えた上で。